手数で勝負か、一撃必殺か

友達数人とのドライブ中、渋滞でちょっと空気が沈んだ瞬間。すかさず「ねえこの看板の店、絶対やる気ないでしょ」「あ、今の鳥めっちゃ目合ったわ」と、滑ろうが構わず次々に言葉を投げ込む人がいます。一方で、その横でしばらく黙っていたかと思うと、信号待ちでぽつりと一言だけ言って車内を全員爆笑させる人もいる。
同じ「笑わせたい」でも、この二人はまるで戦い方が違います。僕がやっている診断では、これを手数(V)と厳選(S)という軸で見ています。とにかく数を打つか、ここぞの一発に絞るか。今日はこの一本道の、両側の景色を見てみたいと思います。
正直に打ち明けると、4つの軸のなかで僕がいちばん悩んで、いちばんこだわったのが、この手数/厳選でした。ボケかツッコミか、いじりかいじられか、あたりはわりとすんなり言葉にできた。でも「たくさん打つ人」と「絞って打つ人」の違いは、そもそもこれを一本の軸として立てていいものか、最後の最後まで自分のなかで揺れていたんです。それでも外せなかったのは、同じくらい面白い二人なのに笑いの出し方が正反対、という現象が、どうしても説明したかったから。今ではこの軸が、診断のいちばん隠し味になっていると思っています。
10回滑っても1回ウケればいい
手数派(V)の哲学は、とてもシンプル。打席に立たないとヒットは出ない。だから空振りを恐れません。むしろ恐れるのは、空気が止まることのほう。
彼らにとって沈黙は敵です。会話に間ができると、なんとなく埋めたくなる。思いついたことはそのまま口に出すし、ウケなくても気にせず次のボールを投げていく。本人の中の計算式は「10回滑っても1回ウケればチャラ」くらいのもの。
このタイプがいると、とにかく場が回ります。フルスロットル暴れん坊(BAPV)は勢いそのままに笑いを撒き散らし、ハイテンション愛され王(BRPV)は外しても「またやってる」と許される愛嬌で押し切る。打数の多さは、それ自体がひとつの才能なんだと思います。
沈黙も仕込みのうち
対して厳選派(S)が勝負するのは、打率です。
彼らは思いついたことを全部は言いません。頭の中で何個も候補を組み立てて、いちばん効くやつだけを選んで出す。だから口数は少ないのに、出てきた一言の精度がやたら高い。それまでの沈黙さえ、振り返れば仕込みだったりする。みんなが忘れかけた話題を、絶妙なタイミングで一回だけ引っ張り出して全員をやられる、あの感じです。
ワンショット狙撃手(BACS)やスナイパー毒舌家(TACS)という名前をつけているのは、まさにそういう人たち。連射はしない。けれど一発が深く刺さる。マイペース仙人(BRCS)あたりになると、もう本人は狙ってすらいなくて、たまに落とす一言が異様に味わい深かったりします。
「あの人、しゃべらないけど時々めちゃくちゃ面白いこと言うよね」——思い当たる顔が浮かんだ人、いませんか。たぶんそれが厳選派です。
会話のテンポが変わる
この二つは、会話そのものの手触りを変えてしまう。
手数派がいると、会話はよく転がります。次から次へとボールが来るから、テンポが落ちない。グループLINEでもポンポン返ってきて、気づけば通知が30件。その場の熱量を作るのは、だいたいこの人たちでしょう。
厳選派がいると、逆に一言が記憶に残る。量が少ないぶん、密度が濃いからです。飲み会の翌日にふと思い出して一人で笑ってしまうセリフって、たいてい厳選派が落としていったもの。瞬間の盛り上がりと、あとから効いてくる余韻。どちらが上ということはなくて、ただ笑いの残り方が違うだけ。
同じ場にいると、なぜか噛み合う
面白いのは、手数派と厳選派が同じグループにいるとき。
一見すると正反対なのに、これがかなり相性がいいんです。手数派が勢いよく場を温めて、たくさんの話題を散らかしていく。そこに厳選派が、散らかったものの中からいちばんおいしい一つを拾って、決定打を打ち込む。前を走る人と、最後を締める人。役割が自然に分かれて、笑いのリレーが成立する。
逆に手数派ばかりだと全員が同時にしゃべって渋滞するし、厳選派ばかりだと誰も口火を切らずに静かな夜になりがち。だからこの軸は、誰と組むかでけっこう化けます。
ちなみに僕自身は、長いこと自分を厳選派だと思っていました。一言でスパッと刺すお笑いが好きだし、ああいう切れ方に憧れもある。なのに、自分で作った診断をやってみたら、結果は手数(V)寄りのオールラウンド司令塔(TACV)だったんです。
理由は、われながら情けないくらい単純でした。僕、ただのおしゃべりなんですよね。一発に絞りたい気持ちはあるのに、口が勝手に動いて、気づけば何発も撃っている。好きな笑いの形と、実際の口数が、まるで一致していなかった。憧れは厳選、中身は手数。自分で作っておいて自分が一番びっくりした結果で、でも、こういう「思っている自分」と「やっている自分」のズレがそのまま出るのが、この診断の正直なところだなと、妙に納得もしたのでした。
たぶんあなたの周りにも、片方の顔が浮かんでいるはず。そしてあなた自身は、空気を止めない側か、ここぞで仕留める側か。そのへんを確かめたくなったら、いつか診断に立ち寄ってみてください。

